- 1年延期されて2021年に開催された東京オリンピック2020。その公式映画「東京オリンピック2020」を見て来ました。
- この映画は“アスリート視点”で描かれた「SIDE:A」と、“大会を支える関係者の視点”で描かれた「SIDE:B」の2作品からなっており、スポーツ自体にはほとんど興味がなく、一方でさまざまな裏方や舞台裏に関心を持ちがちな私は「SIDE:B」のみを鑑賞してきたという次第です。
- 総監督は、A・Bともに河瀬直美さんです。
When(鑑賞時期)
2022年6月下旬。
SIDE:Bの公開日は6月24日でしたが、公開から数日経った平日に映画館に行ってみました。
Where(鑑賞場所)
仕事でよく行く川崎市のTOHOシネマズ川崎で観てきました。↓
(川崎駅周辺って、ホントに映画館が充実してます。駅からの徒歩圏内にシネコンが3つもある街なんて、他にあるんでしょうか?)
Outline(概略)
配給元である東宝さんのサイトから、イントロダクションや作品情報を転載します。↓
2021年夏、日本人は、
いったい何を経験したのか——コロナ禍、延期、様々な問題、そして迎えた1年遅れの開催。
750日、5000時間の膨大な記録が映し出していたものは、フィールド上、競技場の内外、至る所に満ち溢れていた情熱と苦悩。
その全てを余すことなく後世に伝えるために、映画監督・河瀨直美が紡ぎ出す、「東京2020オリンピック」の2つの事実。
コロナで見えづらくなった“繋がり”を可視化し、“オリンピックの在り方”と“日本の現在地”を突き付ける。今後、オリンピックが進むべき道は? 本当のニューノーマルとは?
2つの側面から、あなたにとっての東京2020オリンピックの「真実」が見えてくる。製作情報・クレジット
監督:河瀨直美
製作・著作:International Olympic Committee
企画:東京2020組織委員会
制作:木下グループ
配給:東宝
© 2022 -International Olympic Committee -All Rights Reserved.公開日
https://tokyo2020-officialfilm.jp
2022年6月24日(金)公開
Highlights(見どころ)
「東日本大震災からの復興五輪」「超・集積都市の東京でこそ開催できるコンパクトな大会」をかかげて開催都市として立候補。 そして当選。
世界を襲ったコロナ禍によって1年延期。全てのスケジュールが組み直しに。
対応に追われる組織委員会。
かたや「延期に困惑するスポンサー企業の説得は組織委員会でやることだ」と、自らが事態収集に動くことに後ろ向きなIOC会長のバッハ氏。
突然発表された開閉会式演出チームの入れ替え。
緊急事態宣言下で開催することとなった東京都。
巻き起こる開催反対の声。中には直接バッハ氏に浴びせられるものも。
ギリギリまで引っ張って、最終的に無観客開催が決定。
困惑しつつも開催を切望するアスリートたち。悪戦苦闘し続ける運営スタッフ。
スタッフを鼓舞する一方で「全く何が起こるかわからないもんだな」とつぶやく組織委員会会長(当時)の森氏。
その森氏本人の“女性蔑視発言”により、さらに反発する世論。苦言を呈する多くの識者。
そして会長職の辞任。
開閉会式の新・演出統括者が“容姿侮辱案を提案”していたことが判明。辞任。
マラソンと競歩会場が東京の暑さを理由に、札幌に変更。
その札幌も期間中は猛暑に襲われ、女子マラソンのスタート時刻を(前日になって)1時間繰り上げることが決定され、徹夜の変更作業にドタバタとなる運営陣。
コロナ患者を懸命に治療する医療従事者。
“金メダル確実”とされていた日本人有力アスリートたちの不調。
などなど、さまざまなエピソードが(時系列を少なからず無視した形で)映し出されていく形式の映画であり、開催に賛成・反対いずれの立場の人が鑑賞しても「あぁ、ひどくムチャクチャな大会だったなぁ」という一点で共感し合える作品に仕上がっていたと思います。
Impression(感想)
SNS上での反応を見ると、「国立競技場の設計コンペのやり直しもあったし、大会エンブレムの盗用疑惑とか開会式演出メンバーの“過去のいじめ経歴”発覚とかもあったのに、その辺をスルーしたのは許せない。IOC側に忖度したんだろ」とか「森喜朗とかバッハ会長が登場しすぎ。礼賛映画かっつーの」的な批判が少なくないようです。
まぁ、そういう気持ちになるのもわかりますけれど、これは「不祥事だけを追求する報道ドキュメンタリー映画」ではありませんし、むしろIOC公式作品にも関わらず「こんなにドタバタ続きの大会だったんです。身内もドタバタしてました」という描かれ方をされているので、総監督の河瀬さんの問題意識(作家性?)はそれなりに発揮されてるんじゃないのかなと思います。
(彼女の他の作品を見たことないですが、「自国開催のオリンピックを題材に、自分の作品を作ってみませんか」とオファーされたら、映画監督としての血が騒いでも不思議じゃないとも思いますし)
それよりも私が一番心を動かされたのは、「オリンピックが終わってからまだ1年も経っていないのに、作品内で描かれた個別のエピソードを自分がほとんど覚えていない」ことでありました。
もちろん当時の映像を見れば「そうそう、最初の演出統括のMIKIKO先生は降板しちゃったんだよな」「男子400mリレーでバトンパスに失敗したんだっけ。そうだったそうだった」「あぁ、この時の総理大臣って菅さんだったね、たしかに」と思い返せるので、認知症の初期症状とは言い切れないと思います。
そういうことではなく、オリンピック関連のエピソードのほぼ全てが、私にとって「今となってはどうでもいいこと」に成り果てている事実に驚愕したということであります。
まぁ、もっとはっきり言ってしまうと、この映画を拝見してますます「やっぱり延期じゃなく、中止しとけばよかったんじゃないの? 大会は終わったけど、それで我々が得られたものって何かあるんでしたっけ?」という気分になってしまいました。
たしかに多くの人々の尽力でなんとか無事に終わりましたが、この経験が次回以降の大会のノウハウとして活用できるのかどうか、私は極めてあやしいと思っています。
さらに言えば、「“平和の祭典”の記憶として折りに触れて振り返り、味わい続けられるようなノンキな時代でもなくなってますよね」という気持ちもあります。
これは別にコロナとかウクライナ問題とかの個別事象を意識しているのではなく、「“オリンピックの自国開催”に何かを託す」という発想や行為そのものがもはや(とっくに?)無効なんじゃないかということです。
2回目の東京オリンピックの誘致を始めたあたりからなんとなくそんな気がしていたのですが、託す内容が震災復興であれ景気刺激であれ国威発揚であれ、もはやオリンピックに何かを願掛けする行為自体がカッコ悪いという思いは、この映画を見て確信に変わりました。
おまけに、開閉会式という「祭」のプロデュースチームが途中で空中分解するあたりには、日本の芸能とかエンタメの底の浅さが露呈してしまったとも感じます。
本作品内で、野村萬斎さんが「電通」という企業名を挙げながらインタビューに答えているのも、そのへんに対する異議申し立てだったのでしょうが、私にとってはそこがこの「SIDE:B」のクライマックスでした。
(あらゆるエンタメ業界関係者にとって、このインタビューは必見だと思います)
余談ですが、私が鑑賞した上映回の観客数は、私を含めて3人でした。
キャパ114席のシアターで、3人。
ギリギリで“有観客”でした。
Link(関連サイト)
公式映画「東京オリンピック2020」の公式サイト。↓
本作の予告編。↓
鑑賞してきたTOHOシネマズの公式サイト。↓
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