- 以前、東海テレビさんが製作したドキュメンタリー映画の鑑賞記を書いたことがありますが、今回もローカル局のドキュメンタリー映画を見てきたのでご紹介してみます。
- 富山のチューリップテレビさんが作った『はりぼて』です。
When(鑑賞時期)
- 2020年・9月某日。
Where(鑑賞場所)
- 渋谷のユーロスペースで見てきました。
- 前述の東海テレビさんのドキュメンタリー映画も、細野晴臣さんのドキュメンタリー映画を観に行ったのも、こちらです。
Outline(概略)
本作オフィシャルサイトから転載します。↓
“有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一”である保守王国、富山県。2016年8月、平成に開局した若いローカル局「チューリップテレビ」のニュース番組が「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」とスクープ報道をした。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党の重鎮で、その後、自らの不正を認め議員辞職。これを皮切りに議員たちの不正が次々と発覚し、半年の間に14人の議員が辞職していった。
その反省をもとに、富山市議会は政務活動費の使い方について「全国一厳しい」といわれる条例を制定したが、3年半が経過した2020年、不正が発覚しても議員たちは辞職せず居座るようになっていった。記者たちは議員たちを取材するにつれ、政治家の非常識な姿や人間味のある滑稽さ、「はりぼて」を目のあたりにしていく。しかし、「はりぼて」は記者たちのそばにもあった。本作は、テレビ番組放送後の議会のさらなる腐敗と議員たちの開き直りともいえるその後を追った政治ドキュメンタリー。あっけなく辞職する議員たちの滑稽な振る舞いは、観る者の笑いを誘わずにいられない。追及する記者を含めた私たちは、腐敗した議会や議員たちを笑うことしかできないのだろうか。果たして「はりぼて」は誰なのか?地方からこの国のあり方を問うドキュメンタリーが誕生した!
Highlights(見どころ)
- 上記の解説文にある通りでして、それ以上でもそれ以下でもありません。
- ローカル民放局の記者たちが、情報公開請求によって入手した政務活動報告書類を丹念に調べ、政務活動費を不正に受け取っていた富山市議会議員たちを一人一人追及していくわけですが、「人間が窮地に立たされ、言葉に詰まると、こういう表情をするのか」というのが生々しく切り取られていて、そのリアルさが笑えます。
- 一方で、被写体となった議員さんたちの中には、辞職した人もいれば議員活動を継続している人もいて、彼らの多くは人口約42万人程度の小さな地方都市に今なお暮らしている以上、「全国ニュースにもなったし、もう当時の報道で勘弁してやれよ。映画にまでしたら、さすがに可哀想だろ」という空気が市中に醸成されていたとしても不思議ではないと思いますし、それを窺わせるような描写もあります。
- いずれにせよ、こういう報道をローカル局がするのって、さぞや大変だったと思います。
Photo(写真)
Impression(感想)
- 以下、思いつくままに書いてみます。
「調査報道」って、手間ひまがかかる。
- “保守王国”の「馴れ合い体質」が染み付いた市議会があるということは、それだけ利害を共にする一般市民も多いということでしょうから、「もっと暴け。もっと調べ上げろ」とは真逆の声もテレビ局には寄せられていたんじゃないかと想像します。
- しかし、誰かがこれをやらないと、地方自治は形骸化するだけですし、すでにあちこちの自治体で似たり寄ったりな事態に陥っているかもしれません。
- そう考えると、このニュースが「ドキュメンタリー映画」に昇華してしまっている時点で、いかに通常のニュース枠で取り上げるのが難しい題材なのか、という気がします。
- そういう障害を乗り越えるあたりも含め、「手間ひまがかかっている」ことを感じさせてくれます。
「この取材に関して社内外から圧力がかかったことはなかった」そうだが…。
- 本作の監督として、当時報道キャスターを務めていた局アナさんと、市政担当記者さんのお二人がクレジットされています。
- で、このお二人が様々な媒体でインタビュー取材に応じていらっしゃって、その中で「この取材に関する社内外からの圧力はなかった」ことを明言されています。(たとえばこちら。「圧力はなかった」くだり後編に記載)
- ただ同時に「旬なネタじゃなくなると扱いが小さくなる」「継続取材をしなくなる」「(取材の)担当者もコロコロ変わる」「(本作が各種表彰を受けることに対して)社内の冷めた空気はあった」とも答えていらっしゃいます。
- つまり「これ以上、取材するな」という明確な業務命令や市議会方面からの積極的な圧力はなくても、「なんとなく疎ましがられる」「積極的にサポート・応援はされない」という“消極的な抵抗”があったのは確実なんでしょう。
- 現に、監督のお一人だった市政担当記者さんは人事異動によって報道現場をはずされ、もう一人の監督さん(報道キャスター)に至っては、チューリップテレビを退社するというシーンも描写されておりまして、ある種“この環境でやれることはやり切った”という達成感&挫折感&諦念が混ざり合った心境なのではないかと推察する次第です。
- そんなあたりから、「映画のテイストが、ちょっとナイーブすぎるかも」という印象を持ったのも事実です。(ご本人たちにしてみれば大きなお世話でありましょうが)
地方自治体(の政治家や役人)は、詰めが甘い。(笑)
- いずれも、「国政に携わる国会議員や中央省庁官僚の皆さんとの対比」となりますが…、
- 単独取材に(無用心なまま)応じてしまう。
- メディアから不正を追及された途端にしどろもどろになり、困惑の表情を晒しすぎる。
- 不正行為をすぐに認めてしまい、カメラの前で泣いたりする。
- 公文書を吟味せず(黒塗りすることもなく)、情報公開請求にあっさり応じてしまう。
- 架空請求に利用した対象(印刷業者や施設管理者)に、しっかりとした口裏合わせを頼めていない。
- メディアから情報公開請求があったことを関連部局に情報漏洩し、しかもそれがメディア側に簡単にバレてしまう。
- 単独取材に(無用心なまま)応じてしまう。
- などなど、ずいぶんと“詰めの甘い所業”が目につきました。
彼らは本気で不正追及をかわす気があったのでしょうか。もしかすると、それだけローカル局の取材力を見くびっていたのかもしれませんね。 - いずれにせよ、中央省庁・国会議員・閣僚たちの狡猾極まりない対応力と比べて、まだまだ甘いと思わずにはいられませんでした。
(別に中央を見習ってほしいということではなく、地方ではそのくらい“不正の自覚”のないままにやりたい放題なんだろうと想像できてしまい、ウンザリしたということです)
Conclusion(まとめ)
20年ほど前、仕事の関係で某地方新聞社の方とお話しする機会がありまして、こんなことを言われたのを今でも憶えています。
地方紙の人:「面白いことを教えてあげましょう」
私:「なんでしょう?」
地方紙:「県で最も権力を持っている人って、誰だか知ってますか?」
私:「えっ、県知事さん、ですよね…?」
地方:「それも正しいけど、あと2人いるんだなぁ」
私:「県議会の議長さんと、あとは地方裁判所の所長さんですか?」
地:「なわけ、ないでしょ。それは表向きの権力ですよ。実際に力を持ってるのが誰かってことですよ」
私:「(だんだんめんどくさくなりながら)そろそろ教えてください。それって誰ですか?」
地:「1人目の県知事は合ってます。で、2人目は県警の本部長。そして3人目はうちの社長、つまり地方紙の社長ってことです」
私:「テレビ局じゃなくて、新聞社の社長ですか?」
地:「うちの県に限らないけど、ほとんどのローカルテレビ局って、地元の新聞社が大株主になってますから、もともとテレビ局が新聞社に敵うわけないんです」
「なるほど! 確かにその3人が結託すれば『不正する → 捜査しない → 報道しない』となって、やりたい放題ですもんね!」とは、さすがに怖くて言えませんでしたが、こういうトライアングルが今でもあるのだとしたら、それを突き崩すのって、確かにシンドイだろうなと思います。
なんだかんだ言っても、国政は全国民から注目される可能性がある一方で、地方自治体を監視する立場の絶対人数はごく少数でしょうから。
そんなことを考えながらユーロスペースを後にした次第です。
Link(関連サイト)
- 『はりぼて』の公式サイト。
- 本作の予告編。
- 富山市のオフィシャルサイト。↓
- チューリップテレビのオフィシャルサイト。↓
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